こんにちは。ひとつなぎ株式会社の伊藤です。
これまでのブログでは、沖縄での事業展開や理念についてお話ししてきましたが、今回は当社のもう一つの柱である広島のスキーレンタル事業に焦点を当ててみたいと思います。
この事業は私の父が約30年前に始めたもので、広島の雪山の魅力を多くの方に知っていただくための架け橋となってきました。沖縄のアロマやキャンピングカーとは一見異なる事業ですが、「人と自然をつなぐ」という点では共通の価値観を持っています。
今シーズンは私自身が現場に入り、お客様の声を直接聞きながら、新たな可能性を見出した充実の冬となりました。そこで今回は、広島のスキー事業が歩んできた道のりと、そこから見えてきた新しい展望についてお話ししたいと思います。
広島のスキー場は意外な穴場?スキーレンタル事業の軌跡と地域の魅力
多くの方は「広島でスキー事業?」と意外に思われるかもしれません。実際、私も全国各地を訪れると「広島って雪降るの?」とよく聞かれます。
しかし広島には1000m級の山々があり、県内だけでも8箇所ほどのスキー場が存在します。西日本ではスキーに行くとなれば、鳥取や広島が主な選択肢となっており、特に九州や中国地方の方々にとっては、広島のスキー場は冬のレジャーに欠かせない存在となっています。
私たちのレンタル事業は、広島の5つのスキー場へ向かう途中に位置しており、「めがひら店」と「戸河内店」の2店舗を運営しています。西日本では頻繁に雪が降るわけではないため、スキー板やブーツ、ウェア、手袋、ゴーグルなどを個人で所有している方は少なく、このレンタル需要が事業の基盤となっています。
90年代のスキーブーム時に父が始めたこの事業。当時は本当に多くの方が雪山に訪れ、バスが店舗前に8台も並び、スタッフ7〜8名で夜を徹して対応したこともあったそうです。週末は店舗の在庫が全てなくなり、今のようにキャッシュレスの時代ではなかったためレジに万札が入りきらなかったと、父が語ってくれたその熱気あふれるエピソードは、今でも私の記憶に鮮明に残っています。
父から継いだスキーレンタル事業に込めた想いと、受け継いだ価値観
広島のスキー環境について話すと、多くの方が意外に思われるのと同様、当時も広島でスキーレンタル事業を始めるというのは一般的な選択ではなかったかもしれません。
実は父は名古屋出身で、広島に縁もゆかりもありませんでした。しかし、福岡で旅行会社に勤めていた父は、バスツアーで広島のスキー場に送客していた視点から広島のスキー場におけるレンタル需要の高さに気づき、44歳で脱サラして事業を立ち上げたのです。
起業の背景には、若い時に訪れたオーストラリアに家族で移住したいという夢がありました。「このままサラリーマンを続けていては限界がある」と考えた父は、リスクを取って挑戦することを決意したそうです。私が小学生だった当時は、突然父が冬に不在になったことに驚きましたが、この決断が後に私たち家族をオーストラリアへと導くきっかけとなりました。
父が常々口にしていた言葉があります。「みんなが遊んでいる時に働きなさい、働いている時に遊びなさい」お客様の遊びを支え、その体験価値を提供することの大切さを説いたこの言葉は、今の「ASOVIVA WORKS」にも共通する理念となっています。
また、父から受け継いだ最も大切な価値観は「人との関係性を大切にすること」です。取引先や近隣の方々との関係、お店に来てくださるお客様への感謝の気持ち、そして一緒に働くスタッフへのねぎらい。特に印象的だったのは、父が日曜日の仕事終わりに必ずスタッフを食事に連れて行き、その労をねぎらう姿でした。
今シーズン終了時にも、私は各店舗でアルバイトしてくれたスタッフを焼肉に招待し、感謝の気持ちを伝えました。これは父から受け継いだ大切な慣習であり、人を大切にする文化がスタッフ一人ひとりの心に響き、結果として良いサービスにつながると信じています。

売却寸前からの決断、スキーレンタル事業を続ける価値
実は、このスキーレンタル事業は常に順風満帆だったわけではありません。スキーブームが去った後は売上が激減する時期もあり、特にコロナ禍では県をまたいだ移動が制限され、事業継続の難しさを痛感しました。
さらに本社を沖縄に移したことで、季節限定の3ヶ月間だけスタッフを確保する難しさも浮き彫りになりました。アソビバワークスの立ち上げ時期と重なったこともあり、一時は事業譲渡も本気で検討していました。
事業譲渡の話は契約直前まで進んだものの、最終的には先方のご家族の反対もあって実現しませんでした。今振り返っても、昨年他界した父が立ち上げた店舗を売却しなかったことは今後の人生においての転換期になるんじゃないかと思っています。父が立ち上げたこの事業は、会社の重要な柱であり、広島と沖縄という2つの拠点を持つことは、当社の強みとなっているからです。
アソビバワークスのキャンピングカー事業は、私たちの期待を超える反響をいただいており、今後さらに大きな可能性を感じています。特に海外からのお客様が沖縄の自然を満喫する姿を見るたび、このサービスの価値を再確認しています。そんな手応えを受けて、2026年4月には広島でもアソビバワークスを始動させる予定です。冬はスキーレンタルで活用している店舗を、夏や紅葉の季節にはキャンピングカーやアウトドア関連の拠点として生まれ変わらせたいと考えています。

現場に立って見えた、スキーレンタル事業の本当の課題と可能性
今シーズンは、ここ3年ほど業務委託で任せていた店舗運営に、自ら現場に入って取り組みました。12月から先週まで、ほぼずっと広島に滞在し、お客様と直接触れ合う中で、多くの気づきを得ることができました。
現場に入って改めて実感したのは、お客様と最も近い場所にいることの大切さです。以前は人を育て、仕組みを作ることでなるべく現場から離れる方向性を考えていましたが、お客様が何を思い、何を必要としているかを肌で感じるには、やはり現場に立つことが不可欠だと気づきました。
スキーやキャンプに訪れるお客様は、自然の中でレジャーを楽しみたいというワクワク感を持つ一方で、「どうすれば楽しめるのか」「雪道を運転して無事にスキー場までたどり着けるか」といった不安も抱えています。そこで私たちは、単に物を貸すだけでなく、お客様との対話を通してそうした不安を取り除き、安心して楽しんでいただけるよう心がけました。
沖縄からアソビバワークスの若手社員も一緒に連れてきて、3ヶ月間、充実した現場経験を共有することができました。彼自身も新しい環境での経験を通じて成長し、お客様とのコミュニケーションが日に日に上達していく姿を見られたことは、私にとっても大きな喜びでした。
一方で課題も見えてきました。スキーは自然相手の事業であり、天候に大きく左右されます。大雪で高速道路が閉鎖されたり、逆に雪不足でスキー場がオープンできなかったりと、西日本特有の降雪量の不安定さは常に頭を悩ませます。そうした中で、天気予報と睨めっこしながら仕入れ調整を行い、利益を確保する難しさに改めて向き合いました。
また、短期間で採用したスタッフをいかに教育し、高いサービスレベルに引き上げるかという課題にも取り組みました。幸い今シーズンは素晴らしいスタッフに恵まれ、特に以前働いてくれた方々が友人や後輩を紹介してくれるなど、人のつながりに助けられました。接客力やブランド力において、地域内で確固たる地位を築いていることを誇りに思います。
広島と沖縄の自然をつなぐ、地域とアウトドア事業の未来図
今後の展望として、私たちは広島と沖縄という拠点を活かした独自の価値提供を目指しています。
スキー事業の拠点となっている安芸太田町は、広島市内から約40分という近さながら、驚くほど豊かな自然に恵まれた場所です。最近、この地域の活性化に熱心に取り組む「一般社団法人地域商社あきおおた」の方々と交流する機会があり、その熱意に深く共感しました。森の中に身を置くと不思議と心が落ち着く森林セラピーの体験や、山と川が織りなす四季折々の美しい景観に、私自身も何度も癒されています。この魅力をもっと多くの方に知っていただきたいという思いから、私たちのキャンピングカーやキャンプのノウハウを活かした新しい体験の形を一緒に模索しているところです。
広島の県知事も北広島町と安芸太田町を「第2のしまなみ街道」のように発展させたいという構想を持っており、サイクリングや森林セラピーを通じた地域活性化の動きがあります。私たちのアソビバワークスとレンタル事業が、この動きの一翼を担えればと考えています。
課題としては、地域内で素晴らしい取り組みをしている個人や団体が点在しているものの、それらが繋がっていないという現状があります。SUPの業者やガイドツアーなど、それぞれが素晴らしいコンテンツを持っていますが、まだ町全体としての一体感が不足していると感じています。
「ひとつなぎ」という社名変更にも込めたように、私たちはこれらの点と点を繋ぎ、安芸太田の街づくりに貢献していきたいと考えています。人と人、人と自然を繋ぐことで、地域全体の活性化につなげていけるのではないでしょうか。
このビジョンを実現するためには、志を同じくする仲間たちとの協力が不可欠です。沖縄と広島の2拠点生活になることも視野に入れながら、思いに賛同してくれるスタッフと共に、一歩一歩前進していきたいと思います。
沖縄と広島、自然体験の魅力を届ける二拠点展開のこれから
父の事業が根付いた広島と、母の故郷として縁のあった沖縄。私にとってどちらも大切な土地であり、沖縄を拠点とする今でも、広島との繋がりを大事にしています。日本の南北に位置するこの二つの地域は、それぞれに豊かな自然と文化を持ち、まだ世界に知られていない多くの魅力を秘めています。
「広島と沖縄という地域は私にとって思い入れのある土地」であり、この二つの拠点を持つことが当社の強みとなっています。今後はこの強みをさらに活かし、沖縄の魅力を世界に発信する取り組みに加え、広島の素晴らしさも多くの方に知っていただけるような事業展開を進めていきたいと思います。
広島での冬のレンタル事業で学んだお客様との接点の大切さ、そして沖縄でのアウトドア事業で育んできた自然との共生の知恵。これらを融合させることで、国内外の多くの方に心豊かな体験をお届けできると信じています。
これらの取り組みは、長年にわたり事業を支えてくださったお客様、取引先の皆様、そしてスタッフの皆さんのおかげで実現できているものです。皆様への心からの感謝を胸に、今後も「やさしいひとつなぎ」の理念のもと、日本の素晴らしい自然と文化を世界に伝える架け橋として、新たな価値創造に挑戦していきます。
